HIV感染症(通称エイズ、ヒト免疫不全ウイルス)は、昔は不治の病とされてきました。現代は医療の発展もあり、万が一感染したとしても薬の服用によって発症を抑え、普通の人と変わらない生活ができます。ですが、まだウイルスを完全に死滅させる薬やワクチンは開発されていません。発症しなければ死ぬことはありませんが、ウイルスを抑えるために長きにわたって治療を行わなければならないが現状です。まずは、もし感染した場合、どのような治療を受けることになるのか見ていきましょう。
HIVの治療
HIVにかかると免疫が低下し、正常の免疫力を持つ人ではかからない合併症などを起こし、死に至ります。HIVはまず急性期(発熱などが起こる)を迎えた後、数年間~10数年間の「無症候期」と呼ばれる時期を迎えます。この期間は急性期のような症状は起こりません。日常生活に支障はないですが、この時期にも定期的に医療機関へ行き、検査と医師から生活のアドバイスを受けます。症状がすすんできたら、抗ウイルス薬を服用するのが最新の治療になっています。治療は「毎日1~2回忘れず服薬する」のみであり、発症しなければ苦しく辛い治療をすることはありません。
HIVの治療にかかる費用
次に、治療にかかる費用について見ていきましょう。最初の血液検査などで5,000円~1万円くらいはかかります。保健所では無料で検査を受けることができますが、検査を行っている時間や日が限られます。都合のいい時間帯に検査を行っていなければ、医療機関で検査を受けましょう。その後の治療費は、服薬代と定期的な検査代が主です。なにも利用せずすべて自己負担だと15万円~20万円ほどかかってしまいます。これだと、保険を使った履歴は残りませんが、少し現実的ではない値段ですよね。
健康保険を利用しても月5万円ほどかかる計算です。実際には、定期的な血液検査の代金や、再診料もかかってきます。予防しなければならない日和見感染症があれば追加でかかる治療費は増えていきます。
高額な治療費の助成制度
上記の治療費は、一般のサラリーマンの方でも少し生活を窮迫するほどお金がかかるといえます。そのため、多くの方は、症状がすすんで服薬が必要になってきたら「高額療養費制度」や「障害者手帳」などを申請して医療費の助成を受けています。HIVの医療助成としてはこの2つが主です。
・高額医療費支給制度
国で定めた医療費を超えた額については、健康保険への申請によって返還される制度
・障害者自立支援制度
障害者手帳を持つ認定を受け、その障害に対する治療の医療助成を受ける制度
障害者手帳を取得すると所得税の控除をはじめ、さまざまな公共サービスなどの割引を受けることができるので、治療費がかかったとしてもその他のところで節約できることになります。手帳を取得してからの一般的なサラリーマンの所得での支払いは、月々1万円程度になるでしょう。所得が高くても、2万円以上になることはありません。
※HIVで障害者手帳を受け取るには、一定の診断基準を満たす必要があります。
健康保険や助成を使うと会社にバレるのか
上記でも述べた通り、HIVは感染しても発症しなければ一般の方と変わらず仕事ができるので、病気によって会社をやめなければならない、などの心配はないかもしれません。ですが、昔のイメージやほとんどが性交渉からの感染であることから、周りにバレたくない思いが強くカミングアウトしている方は多くはありません。「治療に健康保険や政府の助成制度を利用すれば会社にバレるのではないか」と不安になるのも当然です。ここでは、2つの場合に分けて説明します。
・健康保険を利用した場合
健康保険組合が、レセプトから得た情報を流出することは、法律で禁じられています。治療内容と点数の照合のチェックは行っていますが、なんの治療で使われたかを会社に流出することはないでしょう。
・障害者手帳を取得した場合
ある程度の規模の会社の場合、障害者雇用の一定の基準があります。会社に障害者手帳を持っていることを伝えている場合は別ですが、個人で確定申告などをして税金の免除などを受ける場合は注意が必要です。会社には税金の控除を受けている情報は行きますので、人事・総務部には知られてしまいます。どうしても会社にはバレたくない、という場合は控除を受けない方法しかありません。(退社後に還付申告を受けることは可能)
HIVは今の医療では、生涯にわたり投薬が必要な病です。治療費は高額ですが、助成などを使えば、払えないほどの金額にはなりません。健康保険を利用するくらいでは会社にバレることはないといえるでしょう。ですが助成制度を受けるには、必ず会社には知られてしまいます。ですが、知られることでメリットがあることもあります。年末調整も会社が行ってくれますし、有給休暇や配置にも考慮してもらえる可能性が高いです。人事・総務部に知り合いがいて、どうしても知られたくない・・という場合でなかったら、会社に申請しておくということもいいでしょう。基本的に人事・総務部は機密などについてはとても厳しい部署なので、個人のプライバシーは守られるはずです。